2012年2月10日金曜日

NPOの実態が分かる「NPOで働く」

NPO法人「育て上げネット」の工藤啓氏による「NPOで働く」は、2011年10月に出版された一冊。

NPOの経営や雇用環境の現状を、数字も交えてここまで具体的に書いた書籍は、もしかすると、これが初めてなのではないでしょうか?まだ、読んでいない方に、概要をご紹介します。







「NPOを職業選択のひとつに」から、伝わる想い。

「育て上げネット」は、「職業社会にうまく入っていけない若者」「働くことができない若者」、いわゆるニートやひきこもりと呼ばれる若者たちやその家族を支援し、一人でも多くが仕事につき、社会に参加し、自立できるようにするための支援活動を行っているNPO法人です。

「NPOで働く」は、その理事長である工藤啓氏による著書。NPOを「働く場」としてとらえ、そこでの仕事を「社会の課題を解決する仕事」と位置づけて、いわば、より多くの人々が、職業として普通にNPOを選び、働けるようになる日が来ることを願って書かれた一冊ではないかと思います。

表紙の見返しには、次のような一文が書かれています。「あぁ、これが、この本を書くにいたった想いの原点なのだな」と、感じさせる文章です。

<strong>NPOを職業選択のひとつに</strong>
NPOとはどんな組織なのか?
NPOで働くとはどういうことなのか?
どこから収益を得ているのか?
給与水準はどんなものなのか?
本書を手にとってくださった方の
近い未来や、遠い将来の
働き方の選択肢に
NPOが入ればうれしく思う。



法律や制度が変わっても、「NPOはボランティア」という意識やイメージは、まだまだ強いのが実情です。働く場として、もっとストレートに言えば「就職先」「転職先」としては、なかなか候補にあがらないのが実態ではないでしょうか?
「本当は、社会に役立つことを仕事にしたい」と思っている人は決して少なくないと思います。しかしながら、企業に比べると給料はかなり安い(あるいは、とれない)。若い独身者や生活に余裕のあるシニアなどは別として、家族がいて、生計を立てていかなければならない世代には、なかなか選べないのが実態だと思います。

そんな現状に対して、工藤氏が、「育て上げネットを、普通の会社員に近い条件、待遇で働けるNPOにしたい」と考え、それを少しづつ実現してきたプロセスが、この本にはとてもオープンに書かれています。

育て上げネットのスタッフの平均年収は300万~350万円。「一般企業に比べると、まだまだ胸をはれる金額ではなく、胸をはれる金額まで持っていくのが経営者の仕事である。諸手当てや福利厚生の拡充も図りたい。」と、工藤啓氏は述べていますが、ひととおりの社会保険が揃っており、住宅手当や家族手当、産休・育児休暇制度も整えられているとのことで、ひとりで一から始めたNPOとしては立派なものではないかと感心しました。多くのNPOが、まずは、この水準まで経営基盤を整えられれば、社会への影響度も、もっと変わってくるような気がします。

いつかNPOで働いてみたい。そんな人にもおすすめです。

アメリカでは、ビジネススクール卒業後の就職先としてNPOを選ぶ人や、キャリアを積んだ優秀な人材がNPOに転職するケースも多く、その場合1,000万円とか1,500万円の年収をとることも珍しくはないと言われています。

NPOが経営感覚を持ち、持続可能な組織へと基盤を強化していくことができれば、日本でも、企業で働くのと同じように、NPOで働くことを一生の仕事とする人が出てくることでしょう。社会構造の変化もそれを必要としていますし、この本は、そんな時代への流れを予感させてくれます。

</a>自身の実体験や実情に基づいて書かれているため、しっかりとしたリアリティがあります。文章も、読みやすい一冊だと思いました。また、若きNPO経営者として組織を強くしようという使命感の間から、社会をよくしたいというプレーヤーの顔(気持ち)が、垣間見えるのも好感がもてます。

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